スポーツと目 1 スポーツと視力
引用にあたり
■ スポーツと目の関係の本を探しましたが、出版されている本が数少なく中々見つけることができませんでした。唯一石垣尚男著の「スポーツは目からはじまる」を見つけることができました。有名書店や近所の本屋へ行き探していただいたのですが完売で、再販の予定はありませんとのことでした。古本屋にでも出回っていないかと確認をとったところ、偶然に1冊でできたため拝読いたしました。この本を読んでいるうちに、スポーツの競技を向上させるのには、競技の練習が一番大切であるが、目とスポーツの大切さも重要であることがさらに把握できたと思います。が、しかし、この事をスポーツ競技の向上に、少しでも知っていただくことが出来ない現状に於いて(再販予定がない状態)では、とても残念に思い時間の許す限り引用いたしました。
視力不足のハンディ
人の能力のいわば出力側である筋力、持久力、敏捷性などの体力の諸要素は他者と比較できるが、眼は外界の情報を受容する入力側なので、自分の見ている外界と他者が見ているそれを直接比較できない。代表的なものが視力である。一般に、「眼がいい」というときの「眼」は視力をさしている。同じ情景を見ながらも、視力のよい人に見えているピントのあった情景と、視力のわるい人のピンボケのそれとはまったく異なる情景であり、しかも、そこからもたらされる情報の質と量には格段の差がある。しかし、眼の機能からいえば、フォーカスの合ったシャープな影像が得られるのが正常なので、視力の良い人にはわるい人のピンボケの状態がどのようなものかは通常思いいたらない。ちなみに、視力のよい人(正視眼)がピンボケの状態を体験したければ、凸レンズをかければ、焦点が網膜の前で結ぶので、近視の人が見ているピンボケ状態を体験できる。また、水中の裸眼で見た場合のピンボケは、水の屈折率の関係から、網膜の後ろに焦点を結ぶ最強度遠視の状態である。
視力はスポーツに必要な視機能のうち最も基礎になるものでありながら、視力に対する関心が指導者にも選手にも少ないように思われる。たとえば、指導者がよい視力でである場合に、しばしば視力の低い選手への理解不足が見受けられる。反応のわるい選手や、考えられないようなミスを犯す選手などを「技術がわるい」とか「集中力が欠けている」ことに結びつけやすいが、それが視力が低いことに原因していることも決して少なくないのである。
第二に、選手自身、他の人も自分と同じように見えていると思っていて視力が低いことに気づいていない例である。プロ野球の選手のなかにもときどきあって、新聞の話題になることがある。キャッチャーのサインがよく見えないという例が多い。バッテリー間のサインは5本の指を使って、球種、コースを組み合わせるので、2本か3本かでは大きな違いであるが、この区別がはっきりしないのである。バッテリー間のサインミスは実はピッチャーの視力不足が原因だった、というのも珍しいことではない。
第三は、視力が低いことはわかっていても、メガネやコンタクトで矯正するのを嫌い、勘にたよってスポーツをする例である。安全上、問題があるような低い視力の人で、慣れてしまえばとか、勘を働かせればできるからという理由をつけているが、正しく今矯正すれば、安全で、しかもパフォーマンスがアップする可能性があることに気がついていない。
視力が低い場合、スポーツでは次のようなハンディを負うことになる。
・ボールのスピード感が正確にとらえられない。これはボールが小さければ小さいほど不正確になる。
・ボールや相手との距離の感覚が不正確になる。いわゆる目測を誤りやすい。
・相手や味方の表情がつかめないので、表情や眼の動きなどから次のプレーを予測することができず、対応が遅れる。
・色の感覚が不明瞭。ユニフォームなどの判別や、ボールと背景の区別が不正確になる。
・これらは、夜間のゲームや、暗い照明の下ではより顕著になる。
次のようなしぐさがあった場合、あるいはその選手は視力が低く、よく見えていないかもしれない。
・眼を細めて見る。
・片方の眼を前に出すように顔を向ける。
・まばたきが多い。
・しきりに眼をこする。
また、よい視力が必要とされるスポーツ、それほど要求されないスポーツがある。
●よい視力が必要なスポーツ
・すべてのボールゲーム
・スキー、スケート、自転車競技のように、スピードの出るスポーツ
(これらのスポーツではよい視力は必要で、視力矯正をしないと記憶は伸びないといわれている。)
・射的、アーチェリーなどの標的競技
・ボクシング
(ボクシングは安全上から、よい視力が必要である。アマチュアボクシングでは医学的適性として、片眼視力が0.2以上なければならない、コンタクトレンズは使用してはならないという規定を設けている。)
●とくによい視力を必要としないスポーツ
・陸上競技のなかの長距離、マラソン、水泳のように同一の動作をくり返し、かつスピードが出ないスポーツ。
・柔道、レスリング、相撲などの相手と直接組み合う格闘技。
スポーツ選手の視力矯正
1990年度の学保健統計(文部省)によれば、児童、生徒の視力低下は年々すすみ、裸眼視力が1.0未満の割合は中学生で41.6%、高校生で56.4%(いずれも男女平均)もあり、いずれも過去最高を記録している。このうち、日常生活で不自由を感じる目安である視力0.3未満の増加はいちじるしく、中学生の17.6%、高校生の29.9%が0.3未満である。17歳(高校3年生)では31.6%と、ついに30%を超え、今後も増加の一途をたどるとみられている。スポーツを盛んにおこない、選手としても成長する青少年の半数以上が視力1.0未満で、しかも、何らかの矯正が必要な0.3未満が30%というのがわが国の状況である。以前は、スポーツ選手は眼がいいと相場が決っていたが、これからは眼のいいスポーツ選手は希少価値になるのではなかろうか。
視力のよい人だけがスポーツをするわけではないので、今後、スポーツをする場合の視力矯正は重要な問題になってこよう。視力が低ければ、正確に矯正しなくてはならない。視力矯正によってパフォーマンスが向上することが期待できるし、また、安全上からも必要である。どこまで矯正したらいいかはスポーツによって違っているが、基本的には1.0を得られる視力までが、目安と考えられる。実際に、スポーツ選手はどのように視力矯正をしているのだろうか。東海学生リーグに所属するスポーツ選手326名(男265名、女61名)、平均年齢19.8歳の調査によれば視力(両眼視、裸眼)が1.0未満のものは全体の41%である。アンケートによるものなので若干、正確さを欠くが、スポーツ選手の視力の実態を反映していると考えられる。
これによると、このうち、日常の生活で矯正している人はほとんどなく、0.7で43%、0.6で67%、0.5が90%、0.4以下は100%である。つまり、0.7が日常生活で矯正するかどうかの目安で、0.5以下ではほとんどの人が矯正しているようである。
さて、日常、矯正している116名のうち、スポーツでも矯正する人は約70%である。視力が、0.3以上ある場合、矯正する人は約33%であるが、0.2以下では83%が矯正している。スポーツでは、視力が0.2以下になるとほとんどの人が矯正せざるをえないようである。日常生活では矯正しても、スポーツではできれば矯正したくない、しかし、0.2以下では不自由なので、やむをえずという意識がうかがえる。日常、矯正してもスポーツではしない主な理由として、メガネの場合、ずれる、けがが心配、落ちる、曇るなどがあげられ、コンタクトの場合、ほこりなどで眼が痛い、ずれる、落ちるなどがあげられている。このように、スポーツをするときには見え方に不自由を感じながらも、わずらわしさから矯正しない日人が多い。慣れればとか、勘にたよってスポーツをするというのが実際のようである。この調査では、スポーツをするとき矯正は、コンタクトレンズ(CL)が70%をしめ、メガネは30%である。スポーツではメガネは少数派になりつつある。コンタクトレンズの種類は約75%の人がソフトレンズ、21%が酸素透過性ハードレンズを使用している。
メガネかコンタクトか
コンタクトレンズは、ずれにくい、ケガの心配が少ない、落ちにくい、曇らない、視野が格段に広いなどのメガネにはない利点があるので、スポーツでの視力矯正にすぐれている。しかし、ホコリで眼が痛い、長時間の使用で眼が乾燥するなどの、コンタクトならではの短所もある。とくに土ぼこりの立つような屋外コートや、風の強い日のスポーツではこれらのクレームが多くなる。
また、おもにハードレンズに多いが、ずれたり落ちたりすることがあり、競技中、コンタクトを捜すコンタクト・タイムアウトという場面もしばしば見受けられる。このような場合、レンズを落としてプレーが続けられないことのないよう、スペアーはつねに用意しておきたい。
メガネが不向きなスポーツは、サッカー、ラグビー、バスケットボールのように激しい身体接触のあるスポーツ、体操のような回転が多いもの、スキー、スケートのような眼鏡が抵抗の一部になったり、急激な温度差で曇るようなスポーツである。メガネでもさしつかえないのは、標的競技、ゴルフのような比較的運動量が少ない静的スポーツである。
ゴルフは中高年の人口が多いが、中高年はしだいに調節力が不足してくるので、遠距離よい視力が出るように矯正すると、スコアカードの記入や足元のボールに焦点が合わないという影響が出てくる。中間距離が明視できるような、累進部の広い連続多焦点レンズが適している。しかし、スポーツでの矯正からすれば特殊部類である。
コンタクトレンズの光学的な利点は不正乱視が矯正できることである。不正乱視は角膜表面の凹凸が不規則なため光が乱反射するもので、その多くは後天的に角膜の病気やケガで生じる。メガネレンズでは矯正できない場合があるが、コンタクトレンズは角膜表面に密着し、涙液がレンズと角膜の間をうめるので表面の凹凸がなくなるためである。
現在、コンタクトレンズにはハードレンズ(HCL)、ソフトレンズ(SCL酸素透過性ハードレンズ(GPHCL)があり、それぞれに特徴がある(表2)。ソフトレンズはレンズ怪が大きく動きが少ないことや、レンズが落ちにくいなどのほか、レンズが柔軟なためレンズによる眼への障害が少ないなどの利点ある。
視力矯正の原則は、まずメガネを考え、距離感や周辺視野に違和感を感じるようならば、次にハードレンズを、ハードの異物感に合わないときにソフトレンズを考えるのが原則である。
スポーツでの矯正をメガネでという場合、レンズによるケガや重さを考慮すればガラスレンズよりプラスチックレンズのほうがいい。プラスチックレンズとガラスレンズを比較すると、プラスチックレンズはガラスレンズの2分の1の重量で、衝撃に対する強度は2~3倍あるとされている。