スポーツ選手は「目」が命 日本経済新聞記事より ②-2
視力検査で再認識 スポーツ選手は「目が命」
日本経済新聞より 2015年 2月8日 編集委員:鉄村和之・・・こちらへ
次は「深視力」の検査。機械に顔を固定して前方を見ると、3つの黒い棒のうち真ん中の棒だけが前後に動いている。そして3つの棒が平行に並んだと思った瞬間にボタンを押すというもの。何回目からのトライの時に「これはいいですね」という声が聞かれて気をよくしたが、結局、褒められたのはその1回のみ。前方から遠ざかっていくときはまだましだったものの、遠くから近づいてくるとくはまったくダメ。「この能力はバッティングのタイミングを計るのに関係するほか、サッカーなどでは空いているスペースを感じとる際に重要」と真下医師。深視力の評価は2点に終わった。
■最低評価の1点続出、心穏やかならず
6番目が目と手の協応動作の検査。縦90センチ、横120センチのスクリーン上の各所で点滅するボタンを点灯した瞬間に押すテストで、まるでゲームのような感覚だ。「これならできるかもしれない」と思い、早速トライ。右上、左上、真ん中付近。点灯してから13秒以内にボタンを押すとブザーが鳴るが、押せないと鳴らない。「どこだ、どこだ」。真ん中付近から右や左へ振られたときはまだいいが、右端から左端などといった具合に大きく振られると見失ってしまい、全くついていけない。
日ごろの運転不足もたたってか、点灯に気付いても、手を伸ばしてボタンを押したときには遅すぎる。悪戦苦闘の結果、この検査の結果も最低の1点。「画面全体が見えるようにして、目だけを動かして点滅するボタンを探すといい。顔を動かしてしまうと、高得点は難しい」と終わった後に説明を受けたが跡の祭り。
7番目が眼球運動の検査。これはオアソコン上の画面に緑色の点と黄色の点が不規則に現れ、黄色の解きにその点の上にカーソルを合わせてクリックするというもの。「画面が狭いから、今度こそ」と思って挑んだが、ミスばかり。これまた最低の1点に・・・・・。
■一流選手は時速300キロで横切る速さも見える
最後が「DVA(Dynamic Visual Ability)」の検査で、顔を固定して80cm先のスクリーンを横切るランドルト環の切れ目を見きわめるもの。最初のスピードは10メートル先を時速300キロで物体が横切る速さと同じだったが、あっという間に横切ってしまい、見極められない。徐々にスピードを落としてもらったが、だめ。「眼球を動かして追ってください」とアドバイスされたものの、対応できずにギブアップ。最後もまた最低の1点と、さんざんな結果に終わった。「野球の選手なら、これぐらいのスピードは簡単に見極められる。一流打者なら、10メートル先を時速300キロで横切る速さも見える」という言葉を聞いて、改めてプロ野球の選手のすごさに驚かされた。
■最高得点はある卓球選手の39点
結局、8項目の総合点は11点。「運動経験がない人だと、10点台の後半が普通。また20代以降では加齢とともに低下する」との説明を受けてガクリ・「ただ、あまりにも視力が悪かったので、矯正視力をきちんとすれば、静止視力とKVA動体視力、コントラスト感度はもう少しいい点数が取れると思う。10点台の後半に近いところまではいくかもしれない」とフォローされて、何とか気持ちが落ち着いた。
「プロ野球の選手になるには、トータルで32~33点ぐらいはほしい」と真下医師。こうしたトレーニングは巨人のほか、かつて広島でも実施したことがあり、Jリーグのクラブや卓球など各種競技で取り入れられているという。ちなみに、これまで満点の40点を取った選手はまだおらず、最高はある卓球選手(すでに引退)がマークした39点だそうだ。「いづれにしても、球技スポーツのプロになろうと思うのはやめた方がいい」と笑顔でいわれたのだった。
ちなみに、スポーツビジョンを高める簡単なトレーニング方法を聞いたところ、両手の親指を立てて腕を前方に突出し、顔を動かさずに親指のつめを左右交互に見るといいと教えてくれた。「1日に5〜10分、それを何か月か行うと効果が出る」と真下医師。
■子ども時代のトレーニングは効果大
スポーツビジョンは子どものときからトレーニングすると効果が大きいという話を聞き、今年米大リーグのマーリンズに移籍したイチローが子ども時代、すれ違う車のナンバーを読み取って動体視力を鍛えていたエピソードを思い出した。「親指の爪を見るトレーニングなどは単純にすぎて子どもは飽きてしまうので、いろいろなスポーツで工夫しながら体力と一緒に鍛える工夫をしてほしい」と真下医師は話している。