スポーツ 野球と眼の怪我 Ⅰ
日本ではスポーツ外傷と眼損傷の因果関係、スポーツにおける眼の防御、スポーツに必要な視機能、屈折矯正とスポーツの関係など詳しくまとめた本は少ない。スポーツ大国アメリカでは、スポーツを眼科学から分析しようとする試みはかなりの歴史があるようである。今回、記載させていただく参考文献はアメリカ発 SPORTS OPHTHALMOLOGY書(著者Bruce M.Zagelbaum)によるものです。
[野球と眼のケガ]
米国人の大好きな娯楽である野球は、世界中で行われている最もポピュラーなスポーツの1つである。オリンピックの公式種目としての人気は、国際的なゲームをお大いに促進させることになった。最新の統計によると、組織化されたかたちで野球が行われている国の数は世界中で65にものぼる。野球の起源に関しては多くの推測があるが、近代野球は1839年にNew York州のCooperstownでAbner Doubledayによって考案されたとする説が最も有力である。 米国では、毎年約500万人もの若者が野球を楽しみ、そのうち270万人はりとるリーグチームに所属している。野球による損傷事故は1年間で競技人口の2~8%と見積もられている。毎年90万件にも及ぶ野球による損傷のうち、17万件は顔部である。最も多いのは、軟部組織の損傷であるが、頭部や胸部へのボールの直撃から死亡にいたる事故さえ発生している。 毎年、スポーツが原因で発生する眼の損傷に関しては、5〜14歳では野球が最も多く、年齢をおしなべてみても、通常、野球は米国におけるスポーツによる眼の損傷原因の第1位か2位を占めている。Consumer Product Safety Commission は、1993年に病院の救急外来で処置をしたスポーツとレクレーションによる眼の損傷が41,000件を超え、そのうち野球が原因の損傷は6,136件(14.9%)と見積もっている。報告された損傷の大半は、技能レベルの低い初心者とアマチュアであり、十分に整備されていない場所で起こっている。眼の損傷がどのような種目のどのような年齢層に多いかをみても、第1位が野球の5〜14最(3,150件)、第2位はバスケットボールの15歳~24歳(1,407件)、第3位は野球の25〜64歳(1,185件)、以下、バスケットボールの25〜64歳、ラケットスポーツと続いている。 野球における眼の損傷に関して、以下のような行われてきた。Larrison <リンク表示後翻訳を操作>は202件のスポーツによる眼の損傷を1年間にわたって調査し、19.8%の損傷は野球が原因であると報告している。そのうち52%のものは自分たちの競技レベルを中級者、30%が初心者、17%が熟練者であると説明している。Morehouse <リンク表示後翻訳を操作>によれば、バッターの年齢が低いほどピッチャーの投げたボールに当たるリスクは大きく、それは技能レベルの低い者ほど反応時間が遅く、技能レベルや身体の成熟度の個人差が大きいためであると考えられる。Mills <リンク表示後翻訳を操作>は、眼の損傷は体調が最高の状態にはないウィークエンドアスリートや、上手に打とうとするよりも試合そのものに熱狂してしまう学齢期の子どもたちに多く発生すると考えている。 Zagelbaum <リンク表示後翻訳を操作>らは、メジャーリーグのプロ野球選手についてのプロペクティブな研究を行ったところ、眼の損傷の発生率は、10万イニングごとに1.9回であった。しかも、そのほとんどは軽傷であり、55%は打球によるものであった。それらは通常、まぶたや眼窩周辺の挫傷と裂傷、角膜の擦過傷、外傷性虹彩炎と診断されている。ライナーが当たったピッチャーの損傷の場合は、前房出血、まぶたの擦過傷、結膜下出血、外傷性虹彩炎を併発していた。 打球の当たったのは、内野手が試合に出場していない選手がほとんどである。ネクストバッターズサークルやダックアウトにいる選手は、数多くの高速のファウルボールが飛んでくるので被害を受けやすい。反応時間のわずかな遅れが損傷を引き起こす為、このような場所にいる選手は、いちも注意を怠らず、非常にすばやい反応をする必要がある。さらに、ファーストやサードへの悪送球がダックアウトに飛び込むこともある。Bahill <リンク表示後翻訳を操作>らは、プロ野球の選手はスムーズな眼球追跡運動がすばやく、頭部と眼の対応動作にすぐれ、前庭眼球反射を抑えるのが非常にうまく、これらはすべて損傷をさけるための能力に貢献しているであろうと結論づけた。
■野球が大好きな方、全ての人が視力が良いとは限りません。
[野球と眼鏡]
古田敦也選手とメガネ・・・こちらへ Babe Ruth のバッテイングの秘密は、おそらく彼の眼と耳が他の選手よりも速く反応し、脳がよりすばやく感覚を記録し、平均的な選手に比べると命令をより速く筋肉に伝達することができたことであろう。Babe Ruth の眼は、平均的な人よりも約12%速く反応した。 何年も前から、野球は眼精疲労の原因であると考えられていた。これは、まぶしい光、眼に入る汗、まばたきもせずにボールを見つめることなどすべてがかかわり、ときにキャッチャー、ピッチャー、直射日光のあたる場所にいる選手に顕著である。選手は、眼鏡での矯正が必要なことを監督やコーチに見抜かれることを恐れているため、グランドを離れてさえも眼鏡の着用を拒否する。George Torporcer <リンク表示後翻訳を操作>は、いつも眼鏡をかけてプレーしようとした最初の内野手であった。彼の眼鏡はバウンドしたボールで5回も壊れたことがある。いま、視力の矯正を要する選手のうち何人かは眼鏡をかけているが、ほとんどの選手はコンタクトレンズを用いている。最近では、眼を守るスポーツゴーグル(アイガード)を使用するプロの選手も出てきた。
[野球とサングラス]
ボールが太陽やスタジアムのライトに入ったために、プロ野球の選手がボールを見失うことはよくあり、ときには野手にボールが当たることもある。長年、太陽がまぶしいときには、選手はサングラスをかけてきた。ちょうつがいの部分で上げたりおろしたりすることができたが、最近は、頭の後ろに密着するような革ひもをつけるようになった。普段は、サングラスを上にあげておき、高く上がったボールを野手が見なければならないときだけ指でおろす。このフリップダウン式のサングラスにボールが当たり粉々になったことで、いままでにメジャーリーグの2人の選手が眼に重傷を負っている。フリップダウン式サングラスの製造元であるVision Master 社は、1986年にレンズをポリカーボネートに切り替え、その後、レンズが割れたという事故は1件も起こっていない。
[野球とコンタクトレンズ]
メジャーリーグの選手の14%が試合中にコンタクトレンズをつけている。1991年7月〜1992年7月までの1年間に、メジャーリーグの選手の受けた21例の損傷のうち、6例(29%)はコンタクトレンズが原因であった。コンタクトレンズ関連の眼の損傷はすべて異物が眼をこすることで起こり、ボールによるものは1例もなかった、6人中5人は片眼の角膜上皮剥離、1人は両眼の角膜上皮剥離であった。
最良の視覚を確保することは、当然どんなスポーツでも重要である。とくに野球ではそうである。コンタクトレンズを使ったために、風や舞い上がる土で眼を傷つけたり、眼の表面に他の選手の身体が直撃したり、コンタクトレンズの下に何かが入って眼を傷つける危険性がある。また、スライディングする選手はもうもうとしたほこりを巻き起こすこともある。コンタクトレンズは眼の損傷に対して無力であり、アイガードとコンタクトレンズの併用がすすめられる。
定期交換タイプのコンタクトレンズは、コンタクト保存液と一緒に常に手もとに置く必要があるため、コンタクトレンズをつけている選手に対しては、終日装用の親水性ソフトコンタクトレンズがすすめられる。また、コンタクトレンズを使っている選手は眼の定期健診を行う必要がある。眼の違和感、刺激、視力低下、発赤などの自覚症状のある選手は、コンタクトレンズをすぐとりはずして検査を受ける必要がある。というのも、角膜の表面には特別の注意をはらうことが大切であるからである。
若い人たちでは、スポーツによって起こる眼の損傷の第一原因は野球であり、恐ろしい損傷が起こり続ける。野球による眼の損傷は、ボールの直撃や他の選手との衝突によって発生する。このような損傷のほとんどは、保護用具の使用を義務化することで防ぐことができる。
[野球とフェイスガード]
過去2~3年の間に、顔や眼の損傷を受けた2人の選手は、リハビリテーション中にポリカーボネート製のフェイスガードを用いた。不幸にしてこれは患者の場合であり、防護用具が損傷発生後に用いられている。いかなる偶発的なできごとからも損傷を防ぐことが重要である。
フェアイスガードは、NOCSAE 公認のヘルメットの前面に正しく装着されていれば、眼、頭、顔を保護することができる。こn製品をつくっている会社によれば、フェイスガードをつけている選手からの眼や顔の損傷事故の報告はいまだかつて1件もない。1005年1月1日現在、フェイスガードはディクシーユース 野球リーグにより使用を義務づけられた。リトルリーグではフェイスガードを許可したが、義務化するまでにはいたっていない。Virginia 州のFranklin County ディクシーユース野球リーグは、1981年にフェイスガードを義務づけ、そn2シーズン後、フェイスガードを使用中の損傷はまったくなかったと報告した。リーグ審判は、ボールが顔を傷つけずにフェイスガードから跳ね返されて難を逃れた子どもたちのことを語った。死球の怖さを取り除くことによって、子ども達は安心し自身をもって打席に立っている。このことは、両親とも安心させることになる。フェイスガードはランナーも着用すべきであるが、大事なことはスライディングは足から限定することである。ヘルメットやフェイスガードは首にかかる圧力を強めるため、これらをつけている場合、ヘッドスライディングは厳禁である。フェイスガードで眼と顔は安全に守られるが、軽いものではなくてはならない視界を妨げるものであってはならない。
American Society for Testing and Materials (ASTM) は、若年層の野球におけるバッターやランナーがつけるフェイスガードの標準仕様をもっている。ASTMは野球では投球や打球、それたボールが顔面の損傷を引き起こすので、頭、顔、眼および歯の保護が必要であると考えている。この標準仕様の衝撃テストでは、ほぼ秒速31mのボールが直撃したときの衝撃力に対する耐久性が確認され、このスピードでテスト用のマネキンの頭部に少しでも当たれば不良品と判断される。
フラップ:
形成外科医によって開発されたスラップは、ポリカーボ製であり、衝撃力を弱めるために内部には粘着性の気泡状のパッチが入っている。このフラップは、最初、頬や顎を守るためにつくられたが、いまでは、10人くらいのメジャーリーグの選手が損傷を受けてからこの装具をつけている。これは眼よりも顔の保護を売り物としているようであるが、視野の狭窄が生じないようにポリカーボネート製のフラップは視線よりも下に取り付けられている。
[リトルリーグ野球]
リトルリーグ野球には270万人の子どもたちが参加している。リトルリーグ野球連盟の会長で実行委員長でもあるCreighton Hale によれば、リトルリーグにおける損傷の5.2%が眼に関するものである(私信)。これら眼の損傷の88%がバッターボックス以外の場所で発生しており、ほとんどがボール以外の原因による損傷である。Hale によれば、1989年〜1993年にかけて永久的な失明を引き起こした損傷は1例もない。リトルリーグ野球が始まったころは、バッターランナー、コーチスボックスにいるコーチは、ラップスタイル(巻き込むような)ヘルメットをかぶっていた。現在使われているヘルメットは1972年に採用されたものである。クャッチャーと審判用のマスクは、1939年にリトルリーグが結成された当初から義務づけられていた。バッターのヘルメットやキャッチャーと審判のマスクは義務づけられている。バッターのフェイスガードは認められているが、義務づけられてはいない。柔らかいボールもこれと同様である。
リトルリーグルールブック:
リトルリーグのルールブックから次の条項が削除された。
☑リトルリーグルール1.11h
メタルスパイクのシューズは認めない。鋳型でつくられたすべり止めのついたシューズは差し支えない。
☑リトルリーグルール1.08
加盟チームは、ホームチーム用とビジティングチーム用のベンチを1脚ずつ設置しなければならない。このベンチは、ベースラインから7.6m(25フィート)以上離しワイヤー製のフェンスで被われていなければならない。
☑リトルリーグルール2.00(ベンチ)
選手および控えの選手は、実際に試合にたずさわっているか。その準備をしている場合を除いて自チームのベンチかダックアウトに座っていなければならない。ユニフォームを着ている出場資格のある選手、監督およびコーチ以外は、ベンチやダックアウトに入ってはならない。バッターやランナーがアウトになったとき、ただちにベンチかダッグアウトにもどらなければならない。バットボーイやバットガールは認めない。ネクストバッターズサークルはダックアウト近くにつくるが、次バッターとしてバッターボックスに立つ準備をしている選手を守るために保護フェンスの後ろになければならない。
[ディクシーユース野球]
ディクシーユース 野球リーグは11州40万人以上の選手を擁している。選手は12最以下の子どもである。長年、ディクシーユース野球は顔面の保護を推奨してきた。1995年1月1日に、フェイスガードの着用をバッターに、ライナー、1塁と3塁のコーチに義務づけた。このリーグは、フェイスガードの着用によって損傷から守ることができるのがただ1人の子どもでもそれは十分価値のあることであるという姿勢をもっている。ディクシーは、この顔面の保護を義務づけた最初のユース野球の組織である。他のリーグも後に続いてほしいものである。このリーグの実行委員長であるNick Semter によると、ディクシーユース野球リーグは、長年にわたり安全運動を提唱してきた。まずダッグアウトをファウルボールが届かない位置に移し、選手全員にフェイスマスクの着用を義務づけた。靴底のゴムや金属片の突起による損傷を防ぐために、靴底に少しでも金属を使ったシューズの使用を禁止した。
[メジャーリーグ(プロ)野球]
1957年5月7日、Cleveland Indians (クリーブランドインディアンズ)のピッチャーHerb Score は、Yankee Gil McDougal にピッチャーライナーを打たれた。時速193Km(120マイル)のボールがまともに眼に当たり、大きな血腫とこぶができた。彼は最初の診察で網膜損傷により光覚を失っていた。
1967年8月18日、Boston のFenway Park でメジャーリーグの若きスターTony Conigliaro は、頭部に死球を受け、その衝撃で左頬の骨折、顎の脱臼、左目の網膜損傷を受けた。Conigliaro は1969年にRed Sox (レッドソックス)に復帰し、引退するまでほぼ2シーズン活躍したが、、最初の損傷以来、以前と完全に同じ状態ではなかったと考えられる。1984年4月8日、あるメジャーリーグの選手は左目の上部死球を受けた。1983年のオールスター戦に出場した遊撃手は、損傷を受けて1984年のシーズンをすべて棒にふった。彼は長年、奥行き知覚の損傷により視覚障害をもつようになったが、復帰に成功した。このほかにも、眼の損傷を受けたメジャーリーグ(プロ)の選手のなかには重傷にいたっているケースもある。初心者か未熟者かプロの選手にかかわらず、すべての選手、とくに子どもはリスクは大きい。